構造医学

構造医学

構造医学とは

「構造医学とは、生活環境場を構成している諸要素(医療、教育、経済、科学技術)に対して、
これらを分科方向にみる還元論的な立場に重きをおくのではなく、総合的な視野からとらえ演繹論的手法を
駆使して、構成体全体(構造)として本質を見極めんとする学問であり実践論である。」(構造医学大要より)

構造医学を治療に当てはめてごく簡単に言うと、痛みなどの症状、病態から原因を深く探り、
その原因を判別・見極め、解決していくことで症状を改善させていこうという考え方・方法論です。
ですから痛みを取る、症状を改善させるだけで終わらない、ということが本来の構造医学にはあります。

膝に水が溜まった(膝蓋水腫)例で一般的な治療アプローチと構造医学的アプローチに分かり易い比較があるのでご紹介します(原文のまま)。
「膝関節水腫について考えてみると、一般医学的原因(本態)は炎症によるとされる。確かに炎症であるだろうが、なぜ炎症で水腫になるのかの理解がない。
ここでいう理解とは、病理組織学的見解ではなく、科学的水腫形成の意味である。これが明快でないために水腫を単純に穿刺して抜いてしまうのである。
この真の意味は関節機構上のトラブルまたは免疫的機序によって関節内潤滑に失調をきたし、その結果局所摩耗等の熱エネルギー産出が亢進し、当該潤滑循環系だけでは、この熱エネルギーの分散吸収が出来ず、比熱容量である液体成分を局所に集合することで熱エネルギーを物理的に吸収し、局所破壊をできるだけ阻止しようとしていることがその本態であって、これを理解せずに穿刺等の処理をした場合、一時的症状の消失とは逆に、組織が物理的熱破壊を促されるのも当然で変形、機能破綻がますます進行してしまうのである。」
膝蓋水腫について、原文のものを図も用いてさらに簡単にご説明します。

図1

図1

図2

図2


膝蓋水腫では、膝関節の特に膝蓋骨(お皿)の周りに炎症がおこります。
炎症は熱を伴い、この熱が吸収されないと膝の組織が破壊され機能破綻を起こします。
これを防ぐために生体は局所に水腫(水溜り)を作り、水で熱を冷やすことで組織の破綻を防いでいきます(図1)。
ただ関節の近くに水溜りが出来ると、本来そこを通っていた筋肉などが大きく迂回させられることになります。
そうすると膝を曲げる際テコの原理により大きな負担がかかるようになります。
また膝を動かすと水溜りが出来たことによる関節への不要な圧迫が強まります。こうしたことにより膝の痛みが激増します。
膝蓋水腫による痛みは、最初に書いた組織破綻、炎症によるものがあります。
また先程書きましたように、水腫が出来たことによる、いわゆる二次災害的なものもあります。
穿刺する(水を注射で抜く)治療では、水腫という症状及び上記の二次災害的な痛みを改善することが出来ます。
しかし水が溜まる原因を除くことは出来ないのでまた水腫が形成されてしまうのです。
炎症が起こる原因は一概には言えません。しかし関節が正常な動きを行えない状態であるために起こることは非常に多いです。
この場合単なる膝の曲げ伸ばしで膝関節面等に大きな摩擦が起こり、摩擦が熱となって炎症を起こしているのです。
こうした関節に摩擦熱を生み出す原因に、関節を形成する骨同士に捻じれが生じ、本来の関節運動を行えていないことが多く挙げられます。
図2のように膝を構成する上部の骨と下部の骨がそれぞれ外に捻じれて遊びの部分がなくなると、
膝の曲げ伸ばし時に本来必要な捻り(遊び)がでないため摩擦が生じてしまうのです。 こうした本来の関節運動を失ったことに構造医学の治療テクニックは非常に有効となります。
異常な関節運動を生み出す原因となる筋肉や腱など軟部組織の過緊張などを除くことが出来ます。
また関節運動自体の調節も行います。さらに身体が本来の関節運動を習慣化出来るよう、歩行や姿勢など日常生活での身体の動かし方を指導させて頂きます。 このように原因を根本まで探りそれを解決しようというのが構造医学、とも言えるでしょう。

構造医学の治療の実際

構造医学の治療を実践する時、生体潤滑理論(※)が重要となってきます。
そして人間が重力下で生活し、直立(姿勢)直立二足歩行を行っている特徴を考慮したアプローチをしています。
このアプローチをする際無視出来ない骨盤部分、特に重要な仙腸関節についてみていきます。
仙腸関節は下図のように上半身と下半身を繋ぐ関節となります。
コンパスで円を描く(身体を動かす)際の針の部分、(身体運動の)中心ということになります。

仙腸関節
直立姿勢、直立二足歩行を行うと、上半身からの荷重と地面から下肢を介して伝わる地面反力を常に骨盤部分(特に仙腸関節)で受けることになります。
この仙腸関節は解剖学上動かない関節とされることもありますが、最近の臨床現場では動く関節とみなされることがほとんどです。
その関節面は他の関節と違い、平面・凹凸面等が複雑に組み合わさっています。
その中に隆起した面があり、荷重により圧がかかると潤滑液が一定方向に流れを作り、ベアリング機構としての役割を果たします。
つまり仙腸関節は直立して上半身の荷重と下半身からの地面反力が伝わると、滑らかな関節運動を行える構造になっているのです。
このようなことにより構造医学において仙腸関節は、人体の中で最も適合性の高い優れた関節だとしています。
また脊髄を流れる脳脊髄液の潤滑に仙腸関節は揚水ポンプの役割を果たすこと等もあり、構造医学ではこの仙腸関節の治療が非常に重要なものとなっています。

なお仙腸関節以外の関節も、それぞれの関節の特徴に合わせた形で整復を行っています。
構造医学の実際の各種手技は以下写真のようになります。

仙腸関節の整復

仙腸関節の整復

パッと見カイロプラティクスや整体のようにも見えます。
しかしこの施術で痛みを感じるようなことはほとんどありません。
何をされているか分からない位の微細な圧を仙腸関節に加えて整復を行っています。

股関節の整復

股関節の整復

股関節は脚の付け根のところ(写真で術者左手が抑えているところ)で、
脚と骨盤を繋ぐところです。
状態により整復方法も変わります。写真はその一例です。

頭軸圧処置

頭軸圧処置1  頭軸圧処置2

構造医学のベッドは写真のように可動式です。
写真のように斜めに傾け、半荷重の状態で頭頂から足底まで、体軸に沿って圧を加える処置です。
首、肩、腰の痛みに対して有効な上、そこから派生するしびれやめまいといった症状を緩和させることもあります。
交通事故による脳脊髄液減少症と推測される不定愁訴の症状にも適応の症例が多々見られます。

肩関節へのアプローチ

肩関節へのアプローチ1  肩関節へのアプローチ2

写真左では肩を大きく後ろに、写真右では肩を大きく前に動かすようにして関節の動きを作っています。
写真左では術者の右肘が患者の肩の前に当たっています。これは肩甲骨が肋骨に沿って後ろを向くためのものです。
また術者の右手は患者の上腕部が肩の動きに連動して動くのをサポートしています。
写真右では術者の左手の部分が少しだけ見えます。これは肩甲骨が肋骨に沿って前に動くのをサポートするようにしています。
肩関節は複数の関節が複合的に動く関節なのでその手技も多岐にわたります。上記の写真はオーソドックスな肩への治療方法です。

交通事故への対応

当院での交通事故患者への対応は構造医学を中心にして行っております。 しかしながら交通事故に対する構造医学の治療法がどれだけ優位か、効果的かを示す学術的な証明は見られないようです。
ただ構造医学的なアプローチの交通事故による不定愁訴への臨床上の成果は高いようです。
それは交通事故、むちうち症で難治性となる脳脊髄液減少症に対して、脳脊髄液の潤滑を高める構造医学的アプローチが有効だからかもしれません。
なお当院でも交通事故によりめまいやしびれ等の不定愁訴を訴えていた方の症状が、構造医学的アプローチをすることで改善された症例が多々あります。
専門機関での治療という方法ももちろんあるでしょうが、身近な接骨院という環境で改善する可能性を試されるのも一つの方法かもしれません。

※生体潤滑理論 端的には「生体内での相対的運動下で干渉し合う面、および関連する諸問題と、その臨床応用を対象とする学問・技術」とされています。
関節では骨と骨が面で接続していて、そこが動くことで運動が行われます。
骨と骨の間には潤滑液(ここでは関節液)があり、これが満たされていないと滑りが悪く、摩擦となり、熱を発生し、摩耗が生じ組織を破壊していきます。
ですから関節面には潤滑液が満たされていなければなりません。またこの潤滑液は交換性に循環され、熱エネルギーの移送をシステム化しています。
生体潤滑理論では、関節面に適度な荷重(重力)がかかっている状態(潤滑液が満たされて関節が滑らかに動く状態)を生理的(本来あるべき状態)としています。
引用、参考文献
1. 構造医学の原理(基礎編)-ヒトの直立と歩行から- 吉田勧持 1987 エンタプライズ社
2. 構造医学の臨床 吉田勧持 1989年 エンタプライズ社
3. 構造医学解析Ⅰ-ヒト平衡系のバイオメカニクスと顎関節の生物学的意味- 吉田勧持 1991年 エンタプライズ社

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